白馬岳の植物

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(Produced by)
高山極域環境研究会
(Society for the study of alpine and arctic environment)
&
静岡大学理学部生物学教室
(Faculty of science, Shizuoka University)
バージョン 2.0
( ver. 2.0 )

< 白馬岳(2932m) >

 白馬岳は北アルプス北部に位置し、日本海との間に大きな山脈がないために積雪が多く、強い西風の影響を受ける。そのため、 稜線付近におけるハイマツの発達が悪く、そのかわりに高山草原がよく発達している。また、積雪の多さに加え、地質、地形の複雑 さも影響して、豊富な高山植物種(Species)が生育している。白馬岳固有種、特殊な分布をする種も生育している。
 白馬岳の高山帯では大きく分けて6つの植生タイプ(1.ハイマツ群落、2.高山風衝群落、3.高山荒原群落、4.雪田植物群落、 5.岩場に生育する群落、6.周氷河地形植物群落)が見られる。この中で他の山岳と比べ特徴的な植物群落として、雪倉岳と鉢ヶ岳 の鞍部に広がる蛇紋岩地の植物群落(高山荒原群落)と、豊富な積雪によって形成される雪田植物群落があげられる。また、白馬岳には、 日本列島の高山において特徴的な隔離分布をするウルップソウとツクモグサが生育している。ウルップソウは白馬岳周辺の稜線に広範 囲に分布し、砂礫地に個体群を形成している。一方のツクモグサはウルップソウのように広範囲ではないが、局所的に分布して個体群 を維持している。
 以上の植物群落は限られた生育条件、生育場所においてそれぞれどのように個体を維持していくのか。さらにはこれらの個体群は今後、 発展的であるか衰退的であるか、いずれも興味深い植物群落である。現在、静岡大学植物生理生態学研究グループが調査をすすめている。

  以上、VersionUは白馬岳周辺に特徴的に見られる植物群落を解説した。


葱平からの白馬大雪渓

稜線付近のお花畑

杓子岳と白馬鑓ヶ岳

朝日岳から見た白馬連峰

   白馬岳山頂北側の風衝地

< 蛇紋岩地の植物群落 >

 白馬岳北方の鉢ヶ岳と雪倉岳の鞍部には蛇紋岩が分布している。蛇紋岩は他の岩石に比べ、マグネシウムや ニッケルなどの金属イオンを高濃度に含む岩石である。一般に植物はこれらの金属イオンによって生育を阻害されることが多いが、 蛇紋岩地にはこのような土壌環境に適応して生育する植物種(Species)がまばらな群落を形成している。この群落の中には、 蛇紋岩地など特殊な土壌に分布する植物種(Species)も生育している。これらの植物種(Species)は、 蛇紋岩土壌に生育するためにどのよう生理学的な戦略を持っているのか興味深い。


鉢ヶ岳・雪倉岳・朝日岳

蛇紋岩土壌と鉢ヶ岳

ミヤマムラサキ
Eritrichium nipponicum

イワシモツケ
Spiraea nipponica

イブキジャコウソウ
Thymus serpyllum subsp. quinquecostatus

クモマスミレ
Viola crassa ssp. Borealis var. alpicola

クモマミミナグサ
Cerastium schizopetalum var. bifidium

ホソバツメクサ
Minuartia verna var. japonica

雪倉避難小屋前のお花畑

カライトソウ
Sanguisorba hakusanensis

タカネマツムシソウ
Scabiosa japonica var. alpina

ミヤマアズマギク
Erigeron thunbergii subsp. glabratus

イワショウブ
Tofieldia japonica

シモツケソウ1
Filipendula multijuga

シモツケソウ2
Filipendula multijuga

< 雪田植物群落 >

 高山の小さい谷、船窪地形、凹地などに多量の雪が堆積し、遅い時期まで残っている場所を雪田(せつでん)と言う。積雪の多い 白馬岳周辺では、夏でも稜線付近の凹地や二重稜線、カール底に雪田が残る。この雪田の周りにできる群落が雪田植物群落である。 雪田植物群落では常に融雪によって水分が供給されるため、豊富な水分条件下にある。一方で、融雪が遅く、夏でも雪が残るために 生育期間は短い。また、年毎の積雪量の違いがあるため、植物はそれに対応して生育する必要がある。雪田植物群落には、このよう な特殊な生育環境に適応できる植物種(Species)が生育している。


旭岳の雪田植物群落

ハクサンコザクラ1
   Primula cuneifolia var. hakusanensis

ハクサンコザクラ2
Primula cuneifolia var. hakusanensis

チングルマ1
Geum pentapetalum

チングルマ2
Geum pentapetalum

チングルマ3(果実)
Geum pentapetalum

アオノツガザクラ
Phyllodoce aleutica

< ウルップソウ群落 >

 ウルップソウ(Lagotis glauca)は、ゴマノハグサ科の多年生草本植物である。周北極地域に分布し、日本列島では北海道の礼文島、 本州の白馬岳と八ヶ岳に隔離分布している。白馬岳周辺では6月下旬から7月中旬に開花し、特に稜線西側のなだらかな斜面に大群落を形成 する。白馬岳においては砂礫地に生育することが多い。しかし、湿った草地や蛇紋岩地のような特殊な土壌に群落を作ることもある。ウルップソウは湿性から乾性、さらには特殊な土壌まで様々な生育環境への適応能力を持っていることが明らかになりつつある。
 なお、このデータベースでは、本州におけるもう一つの生育地である八ヶ岳のウルップソウの画像を比較のために加えてある。


ウルップソウと剱岳

砂礫地の個体群

草地の個体群

ウルップソウ

ウルップソウとハクサンイチゲ

流紋岩地のウルップソウ

幼個体群

八ヶ岳のウルップソウ

< ツクモグサ群落 >

 ツクモグサ(Pulsatilla nipponica)はキンポウゲ科の多年生草本植物である。ウルップソウ同様に北海道の一部と本州の白馬岳と八ヶ岳 に隔離分布している日本固有種である。稜線上の砂礫地に多く分布し、白馬岳周辺では6月初旬から7月初旬に開花する。多くの高山植物 の中で早く開花するもののひとつであり、他の植物が最盛期を迎える頃には特徴的な種子を形成している。
 白馬岳と八ヶ岳のツクモグサを比較すると、白馬岳のツクモグサは個体が大きく、砂礫地や風衝地など、他の植物が多く見られない場所に生育 している。同様の隔離分布をするウルップソウよりも形態や生育環境において顕著な違いが見られるのも興味深い。


ツクモグサ個体群

ツクモグサ

ツクモグサ

ツクモグサ

小型の個体

ツクモグサ(果実)

八ヶ岳のツクモグサ



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