植物群落の分布
亜高山帯(標高1,600m〜2,300m)
北アルプスの亜高山帯は、基本的に標高1600m以上に発達し、大部分は自然植生で常緑針葉樹林となっているが、
白馬岳周辺のような日本海側の多雪地域では、針葉樹林の発達が悪く、草原・低木林や崩壊地となっている場合もある。
また、猿倉周辺にはブナ林もよく発達しており、明るい林床にササが繁茂し、豊富な植物相が見られる。
高山帯(標高2,300m以上)
白馬岳は北アルプス北部に位置し、日本海との間に大きな山脈がないために、積雪が多く、強い西風の影響を受ける。
そのため、稜線付近におけるハイマツの発達が悪く、そのかわりに高山草原がよく発達している。また、積雪の多さに加え、
地質、地形の複雑さも影響して、豊富な高山植物種(species)が生育している。白馬岳には固有種、特殊な分布をする種(species)も生育している。
白馬岳周辺では積雪の多さ、強い西風の影響などの気候条件、また非対称山稜などの地形的な特徴を反映して、顕著な山頂現象が見られる。
風上の西側斜面では斜面下方から稜線に向けてハイマツ群落、高山風衝群落、高山荒原群落と植生が変化する。さらに、白馬岳周辺
では二重山稜や断層によってできた窪地に夏期まで残雪があるため、ハイマツ群落、高山風衝群落の中に雪田植物群落が点在し、
全体としてはモザイク状の植生が見られる。
一方、東側斜面の谷筋には、白馬大雪渓に見られるような残雪が多く、雪田周辺や沢筋に雪田植物群落、高茎草原群落が発達している。
また、白馬岳山頂の東面や、白馬鑓ヶ岳の北面などは、急峻な岩壁となっており、このような場所には岩場に生育する植物群落が見られる。
白馬岳周辺は条線土、階状土、亀甲土など周氷河地形とよばれる特殊な地形が多く見られる。これらは寒冷な気候下で、土壌の凍結融解
よって岩屑の生産・移動が生じてできた地形である。白馬岳周辺の西側斜面には周氷河地形に由来すると考えられる植生の縞状分布が
見られる。これは、植被部分と砂礫部分が約50cm間隔で交互に配列し、斜面下方に向かって伸びている。このような現象は土壌環境の
違いによって生育できる植物種(species)が制限されるためであると考えられ、土壌環境と植物の繁殖戦略の関連性が研究されている。
また、この稜線上でひときわ目を引くのが、紫色の花を多数つけた大型の花序を垂直に伸ばすゴマノハグサ科のウルップソウ(Lagotis glauca )である。
ウルップソウは北海道の一部を除いて白馬岳周辺と八ヶ岳の横岳周辺だけに生育している高山植物である。この種(species)が八ヶ岳と白馬岳に
隔離分布している理由はまだ明らかになっていないが、氷河期に日本列島に南下したときの経路や、その後の生育環境への適応がこの
特徴的な分布に影響を与えているものと考えられている。現在、個体群調査や形態比較に加え、遺伝子解析も進められている。
上記を考慮すると、白馬岳周辺の高山帯では大きく分けて6つの植生が見られる。
- ハイマツ群落
- 高山風衝群落(矮性低木群落、草原群落)
- 高山荒原群落
- 雪田植物群落
- 岩場に生育する群落
- 周氷河地形植物群落
以上、白馬のVersion II は高山帯が認められる白馬岳周辺の植物を解説した。