南アルプスの高山植物


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特徴的な高山植物

 南アルプスには標高3000mを超える高峰が14座あり、その稜線周辺には多様な高山植物が分布している。高山植物の分布の特徴として、南アルプスは山岳地域としては日本列島南部に位置するため、その分布において南限にあたるものが多い。地質学的に多様で、砂岩、花崗岩、石灰岩、赤色チャートからなる場所に日本固有種、周北極要素の種、大陸要素の種が混在している。固有種は特に最高峰の北岳に多く、キタダケソウはその代表的な種である。キンポウゲ科の植物で南東面の石灰岩地に生育し、花は白く雪どけと同時に開花する。そのため、6月中旬のまだ雪深い大樺沢の雪渓を登らなければ見ることができない。かつては盗掘に会い、その個体数は減少したが、現在は回復している。
 キタダケと名の付く植物も多く、キタダケヨモギ、キタダケキンポウゲ、キタダケトリカブトはその代表的なものである。そのほか、石灰岩地の白い岸壁に鮮やかな紫色の花をつけるミヤマムラサキも特徴的である。
 北極圏でよく見られる仲間で、日本列島に分布を広げてきたと思われるチョウノスケソウ、ムカゴユキノシタ、タカネマンテマ、ムカゴトラノウも南アルプス中部が南限となる。このうち、ムカゴユキノシタは「むかご」を持つこと、タカネマンテマは「ぼんぼり状のガク」を持つことでよく知られているが、これらは極端に個体数が少なく、保護を必要とする植物である。
 チョウノスケソウは氷河期に北極圏から放射状に分布を広げた代表的な植物である。かつて、日本列島に広く分布を広げたが、現在では南アルプスと八ヶ岳の限られた場所に集中的に分布している。北アルプスにはわずかしか分布していないが、須川長之助が初めて発見した地は富山県の立山である。この植物は学術的にも貴重な存在で、北極域からの分布経路に関する遺伝子解析の対象となっている。

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お花畑(高山草本群落)

 高山植物が数多くかつ広範囲に生育している場所はいわゆる「お花畑」と呼ばれている。このような場所は一般に草丈の高いキンポウゲ科のハクサンイチゲやシナノキンバイが優占している。その代表的なものは千丈ヶ岳の馬の背、北岳南東面、塩見岳雪渓跡地、三伏峠、千枚岳南面、荒川前岳の南西斜面(荒川のお花畑)で、これらが成立する土壌は水分条件がよく夏期には美しい花園となる。しかし現在その多くがニホンジカの食害に会い、かつてのお花畑は見られなくなってしまった。その中でも荒川のお花畑と北岳のキタダケソウ群落の一部はシカの侵入を防ぐ柵を設置することにより、シカの食害を防いでいる。そのほかシカ柵を設置した場所の多くは現在回復の方向に向かっている。

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ハイマツとライチョウ

 日本の高山帯の特徴といえば亜高山帯の針葉樹林より上部に見られるハイマツ群落である。北海道から南部のほとんどの高山にはハイマツが分布しているが、南アルプス最南部の光岳はその南限となっている。ハイマツの分布と深い関係を持っているライチョウも光岳周辺が南限である。この南限のハイマツ群落には近年亜高山帯の針葉樹が入りこむようになり、ライチョウの住み家が少しずつ減少している。
 ライチョウは強風が吹きつける場所にも、低温で雪の深い場所にも生育することのできる逆境に強い鳥である。しかし食料が十分なければ繁殖もできないし生きていくこともできない。高山での主な食料はオンタデ、タカネスイバ、ムカゴトラノウ、イワツメクサなどである。また越冬前の秋にはツツジ科の果実を大量に食べる。しかし近年、矮性低木のコケモモやクロマメノキなどが他の植物に覆われる状況が生まれ、食料の危機が危ぶまれている。

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氷河地形

 南アルプスには氷河時代に作られた氷河地形がたくさん残されている山岳が多く、それらは日本列島における氷河地形の南限でもある。高山植物の多くは山岳地域に残る氷河地形(カール地形)の構造に対応して分布している。南限のカール地形として最もその特徴を維持したまま残っているのは荒川3山の前岳の南面カールである。ここにはカール地形の特徴に対応して多くの高山植物が生育している。

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高山植物【写真】

学名は平凡社の「日本の野生植物」と山と渓谷社の「日本の高山植物」から引用した。

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