フジアザミは、日本列島の中部地方の山地帯から亜高山帯の砂礫地にかけて生育する大型の多年生草本植物です。
植物分類学的にはキク科キルシウム(Cirsium)属の植物で、 キルシウムの仲間にはノハラアザミ、ノアザミ、ナンブアザミなどがあります。
キク科の植物で、ふつう花と呼んでいる部分は、細い冠状の花が多数集まって頭花を作っています。
頭花は直径10cm以上になるものもあり、日本列島ではこの大きさになるものは他にはありません。
花の色は、紫と濃い紅色の間で、小花は管状で細く、五列になっていて、8月の終わりから9月の中旬にかけて花を咲かせます。
まず花の構造について詳しく説明しましょう。
花は普通、めしべ(雌ずい)、おしべ(雄ずい)と花弁(花冠)、がくの器官からできています。
キク科の植物には、これらの器官のうち、「がく」のかわりに総苞と呼ばれる器官があって、それらがひとかたまりとなって、1つの花のように見えます。
しかし、正確にはそれは1つの花ではなくて、多くの小花が密集して、頭花(頭状花序)を作っているのです。
フジアザミはたくさんの小花を持つ植物ですが、小花の1つ1つはめしべとおしべがそろっている「両生花」です。
花弁が筒の形をした筒状花で、タンポポやヒマワリのようなヒラヒラとした花びら(舌状花)を持っていないのが特徴です。
筒状花をもつフジアザミはおしべの部分が特徴的で、集葯雄ずい(しゅうやくゆうずい)と呼ばれています。
めしべは集葯雄ずいの中を花粉を押し上げながら伸びてきます。
この時のめしべはまだ成熟していないので、めしべの回りに花粉がついても自家受粉することはありません。
他の花の花粉によって受精すると、やがて果実(種子)が成熟して、「冠毛」を呼ばれるパラシュートのような綿毛が発達します。
この冠毛のおかげで、フジアザミの種子は風に運ばれて遠い距離を移動することができるのです。
根元には大型の根生葉(ロゼット葉)を発達させますが、芽生えてから4〜5年たつと1枚の根生葉は、長さ60cm〜70cm、幅20cmにもなります。
根生葉は、根元から放射状に広がるので、1つの個体の葉の広がりの直径は1mをはるかに越す大きさになります。
多年生草本植物の特色から、芽生えた後は年ごとに大きくなっていき、4年から5年で最大に達します。
これまで富士山周辺で調査した中で最大のものは、根生葉を広げた状態で約1.5m、花茎の高さは約1mにもなります。
葉の形は長楕円形で、葉の裂片の先端にはさわると痛いトゲが発達します。
成長初期のトゲはそれほど鋭くありませんが、秋口には大変鋭くなって、直接さわることができないくらいになります。
またこのトゲは、頭花の付け根にも発達していて、頭花を直接手でさわることは困難です。
フジアザミは、富士山を中心に、日本列島中部の低山帯から亜高山帯に分布しています。
富士山での分布調査の結果から、特にフジアザミが集中的に分布している場所は、富士山南東面の御殿場・双子山の周辺(標高1,400〜1,800m)であることがわかりました。
双子山は富士山の寄生火山で、この北側はアザミ塚と呼ばれている古くからフジアザミの個体数が多く、密度の高い場所でした。
調査の結果、アザミ塚では、単位面積あたりのフジアザミの個体数は1平方メートルあたり7.72個体でしたから、
植物で被われている面積のうち、約80%がフジアザミのロゼット葉であるということになります。
富士山の南東面では、フジアザミは、アザミ塚の周辺から標高の低い部分および東側に分布を広げていったものと思われます。
そのほか、富士山の南面、または東面の須走方面の砂礫地にも広く分布しています。
また、富士山の北西部の大沢を中心として、その付近の崩壊地にもフジアザミが見られます。
また、フジアザミは、中部山岳地域の亜高山帯にも広く分布していて、
静岡県側では安倍峠の上流、大井川の中流、水窪の河川敷などに、山梨県側では八ヶ岳の裾野から釜無川の上流、
長野県では八ヶ岳の亜高山帯の崩壊地、南アルプス戸台川流域、北アルプスの梓川上流、さらに日本海側では、
石川県白山周辺などにも分布しています。いずれも人為的に裸地が生じた場所、崩壊地、河川敷に分布しているものです。
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