アポイ岳

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高山極域環境研究会(代表:増沢武弘)
(Society for the study of alpine and arctic environment)
&
静岡大学理学部生物学教室
(Faculty of science, Shizuoka University)
バージョン 2.0
( ver. 2.0 )

アポイ岳

 アポイ岳  アポイ岳は、北海道日高山脈南東部に位置し、標高は810.6mであるが、その稜線上には低い標高にもかかわらず高山植物群落が分布している。 この山の母岩は超塩基性のカンラン岩であり、稜線付近にはそれらが風化した土壌が生成されている。このカンラン岩由来の土壌と海岸気象条 件が、低い標高においても高山性の植物やアポイ岳の固有種が残存している理由といわれている。


アポイ岳の地形・地質

 アポイ岳は、北海道の日高山脈の南部に位置し、海岸に近いため海の気象の影響を大きく受ける。例えば、海岸からの夏季における濃霧の発生 による日射量の減少とそれに伴う気温の低下がみられる。
 また、アポイ岳の母岩は超塩基性岩のカンラン岩であり、これから生成された土壌の化学的・物理的な性質は植物の生育には適さないと言われている。カンラン岩の化学的な特徴と して重金属の含有量が他の岩石に比べ高いこと、マグネシウムに対しカルシウム含有量が少ないという点が挙げられる。
 初期の土壌は母岩から生成されるため、土壌は母岩の影響をうける。そのためカンラン岩地帯の土壌は他の土壌に比べ金属含有率の偏りが大きく、 比較的多くの重金属を含む。このような岩石が風化し、生成された土壌の性質は、植物の成長に大きな影響を与える。たとえば、過剰なマグネシウム 濃度下におけるカルシウムの欠乏や、過剰なニッケルの存在は植物の成長を著しく阻害することが報告されている。そのため、カンラン岩地帯に生育 する植物群は限られている。
 上記のような特殊な環境要因によりアポイ岳には固有の植物が多いと考えられている。


アポイ岳の植生

 北海道南部の日高山脈南端に位置するアポイ岳は、810.6mという標高にもかかわらず高山性の植物が数多く生育し、そのなかにはアポイ岳に固有の植物も多い。アポイ岳はその植物相の貴重さゆえに1952年に国の天然記念物に指定され、1981年には日高山脈襟裳国定公園の特別保護区に指定された。
  アポイ岳の山頂はダケカンバ林に覆われている。標高約600mから山頂近くの9合目までの稜線に沿ってわずかな面積であるが、カンラン岩が露出し、裸地がみられる。稜線上のカンラン岩(ダンカンラン岩)は超塩基性岩であり、この性質がアポイ岳超塩基性岩フロラを特徴づけている。稜線の西側は急峻であるが、東側にはやや開けた草原が分布し、稜線の裸地付近の草原にはアポイ岳固有の植物の分布がみられる。
 しかし、アポイ岳が天然記念物に指定された前後の40〜50年前から、木本植物の侵入によって高山植物の生育範囲が狭められてきている。その先駆的な木本植物はハイマツ(Pinus pumila)とキタゴヨウ(Pinus pentaphylla)であり、これら木本植物の侵入が特殊植物群落である超塩基性植物相の急速な衰退に対して重要な役割を果たしていると考えられる。


アポイ岳の植生

アポイ岳の植物


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