南アルプスの植生

南アルプスのうち南アルプスを北部と南部に分け、今回は荒川三山の氷河地形と植生を解説する。

荒川三山の氷河地形と植物群落

概要

 荒川岳南東面には3つのカールが並列し(下図参照)、カール底からカール壁まで、その環境傾度に沿って高山植物群落の変化が見られる。
 カールの内部には大きな「お花畑」が広がっており、キンポウゲ科の植物(ハクサンイチゲ、シナノキンバイ、ミヤマキンポウゲ)やタカネヨモギなどを優占種とする群落内に、クルマユリやバイケイソウ、ミネウスユキソウなど多様な植物が生育して、季節を追って数多くの花や果実を見ることができる。また、稜線近くの風が強い砂礫地にイワツメクサやタカネツメクサ、チシマギキョウなどの高山植物が厳しい環境に耐えて生育している。
 特に、荒川岳付近は南アルプスでも有数のお花畑があり、150種以上もの高山植物が生育している。その中には南アルプス固有の植物や、分布のごく限られている植物など、貴重な植物も含まれている。

カールの位置

荒川三山周辺の風衝地植生

概要

 荒川三山の周辺には荒川前岳および丸山の山頂付近に、常に強風が吹き付ける風衝地がみられる。風衝地の植物は強風を常時受けているため、高茎草本植物に属する種類も草丈が低く、矮性低木と混生して生育している。また、この場所には状線土・階状土・ソリフラクションローブなどの周氷河地形が発達しており、高山植物は周氷河地形による微地形にそって分布している。
 荒川前岳の西側斜面は大崩壊地となっており、現在急速に山頂下部が削り取られている。前岳風衝地の植物群落は近い将来消失してしまうと考えられる。